#04 ボランティアで活動する人

「内海紀公子さんは、当センターとのご縁で、えみふるさんに通ってくださっている、福祉ネイリストの方です。高齢者や障がいを持つ方は、自分でネイルを塗ることが難しかったり、関心を持たなくなってしまったり‥‥。ですが、内海さんのおかげで、指先が綺麗になって、心から生き生きと過ごされる方々がいらっしゃるんです」 
 
前回取材をさせていただいた、ちよだボランティアセンターの峯さんによる言葉だ。ネイルと福祉、そしてボランティア。これらがつながっていること、さらに内海さんが、えみふるでご活動されていることを知り、『福祉ネイル』について、内海さんに直接お話を伺った。 
 
福祉ネイルとは、主に高齢者や、病気や障がいを抱えている方々に対して行うネイルだ。内海さんは、日本保健福祉ネイリスト協会に所属していて、普段は福祉ネイルスクールの講師、そしてサロンワークのご活動をされている。福祉ネイルとの出会いは、育児と仕事、そして義母への思いが重なったことだと、教えていただいた。 

「大学を卒業して、スクールに通ってネイリストになりました。サロンで5年働き、結婚を経て4人の子どもに恵まれて。子育ては保育園に預けて働くことが難しく、専業主婦でした。ただ、5人目に長女を授かったことで、そろそろ働かなきゃ、って。そのとき自分に何ができるだろうと考えると、ネイルしかなかったんです。でも、元々勤めていたサロンワークと、子育ての両立は難しい。思いを巡らせる中で、亡くなった義理の母を思い出しました」 
 
「義理の母は、マニキュアが大好きでした。抗がん剤で爪が黒色になっても、毎日赤いマニキュアを自分で塗って、隠すような人だった。ただ、亡くなってしまう前は、私は小さな子どもたちがいて、ネイリストだけど、なかなかネイルをしてあげられなかった。そして亡くなってしまったので、ずっと悔いが残っていたんです。そのことを思い出したとき、“福祉ネイリスト”に出会って、これだ! と直感して」

内海さんは福祉ネイリストの資格を取り、高齢者や障がいを持つ方々の施設へ、出張で伺うようになった。その後えみふると出会い、月2回のボランティアで通うようになったのだそうだ。 
 
実際に、えみふるでのネイル風景を見学させていただいた。すでに、内海さんと利用者さんの間には、目に見えない信頼関係があって、ワクワクとした空気が流れていた。 
 
施術がはじまると、内海さんと利用者さんは日常会話をしながら、爪の形を整え、今日のネイルの色について話し合っていく。そのときの内海さんの朗らかな雰囲気が、パッと利用者さんの心を照らしていた。そして、今度は手先がパッと、魔法のように明るくなっていくのだ。 
 
「きれいになるということは、心がワクワクする、人に会いたくなる、という力があるんです」 
 
と、内海さんの言葉を思い返した。 

まさに、この空間はどんどん明るくなっていった。男性の利用者さんでネイルを希望する方もいた。そしてみんな、会話したくなるのだ。「ほら見て!」と褒めたり、褒められたり。ネイルを通して、自然と心が生き生きしていく。その変化を間近で感じた。自分もネイルをしたい! と強く感じたもの。(写真を撮っていたので、言えなかったけれど) 
 
内海さんに、福祉ネイルを通した印象深い出来事について、尋ねてみた。 
 
「手に麻痺があって、それを人に見せることが嫌だから、ネイルはやらないかな、という方がいて。それでも、みなさんのネイルの様子を見て、徐々に興味を持ってくださって。それから『次はちょっとやってみようかしら』『でも本当に手は出したくないんです』という流れを経て、後日、ネイルをさせていただいたんです。そしたら‥‥もう、宣伝部長です(笑)。『あなた、今日はネイルあるから来なさいよ!』と、ほかの方を誘ってくださるようにもなって」 
 
「直接、尋ねてみたんです。その方にネイルについて。すると『手を見せるのは恥ずかしいけれど、ネイルを見て欲しいから、手を出せるようになった』と。ものすごくびっくりして、嬉しかったのを忘れません」 
 
ネイルを通した内海さんの思いは、明るく輝いていた。さらに福祉の現場と出会ったことで、最近はLINEで高齢者の方々をつなぐ、ボランティアもはじめたそうだ。あたらしいつながりが増えて、ご近所さんにも知り合いができて、娘さんの登園時にご挨拶をしたり。 
 
人と人とがつながることの温かさを、大切さを、内海さんは誰よりも知っている。そしてこれからも、先生は手をそっと握りながら、それを明日へつないでいく。 

2022年2月22日 「#04 ボランティアで活動する人。」 写真と文章 仁科勝介(かつお) 

取材ご協力 
NailSarasa 内海紀久子さん

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