#11 車いすでもあきらめない世界。
一般社団法人WheeLogさんの取材へ。バリアフリーに関する情報を集めたい、という動機から5年前に始まった活動は、日に日に大きな輪となって広がり、共感する方々が数珠繋ぎにつながり、その広がりは国内外に及ぶ。
活動のひとつに、アプリを使ったバリアフリーマップの作成がある。バリアフリーマップの作成を紙面上のみならず、誰でも共有できるアプリ内で進めていくのだ。ほかのユーザーによる記録を共有して見ることができ、それはバリアフリーに関わる公共交通機関やトイレ設備、お店の情報まで幅広い。
その取り組みを、ひとつのイベントとしても行なっている。ぼくは今回、“街歩きをしながら日本橋のカフェを目指す”という企画に参加した。合わせて8つの班に分かれていた。前半は各班バラバラのスタート地点から街歩きを行い、後半は集合したカフェでフィードバックや交流を行う。どんな時間が待っているのだろう。
ぼくたちの班は秋葉原駅集合だった。車いすユーザーのKさん、街歩きに参加されたことのあるAさん、えみふる職員のMさん、そしてぼくの男性4人。4人で、秋葉原から日本橋を目指す。車いすはKさんと、調査で使用する1台と、計2台。そして、調査という枠を超えた楽しい企画が待っていた。スタッフの方から、ビンゴ形式になったミッションが配布される。調査項目をビンゴ形式で当てはめることで、楽しみながらゴールを目指すのだ。「全員車いすに乗る」「アプリ内で投稿をする」「電車かバスに乗ってみる」「お店にオリジナルステッカーを貼ってもらう」と様々な項目。よくできているなあ。
さて、秋葉原駅スタートのぼくたちは、相談の結果、オリジナルステッカーをお店に貼ってもらうという名目で、メイド喫茶を目指すことになった。4人のうち誰一人、メイド喫茶に行ったことがなかったのだ。取材なのに、メイド喫茶の記事になってしまわないだろうか。不安と、ほんのり淡い期待‥‥。
観光協会でメイド喫茶の情報を得たぼくたちは、迷わずそのメイド喫茶へと向かった。狭いエレベーターをなんとか順番に乗り、7階まで上がる。混み合っていて、エレベーターに乗るだけでひと苦労だ。店内は満席だった。まもなく断られてしまった。外に出て、作戦を練り直す。だが、まだ諦めない。代わりに教えてもらった、系列店のメイド喫茶へと向かった。先ほどはエレベーターにひと苦労だったが、今度はお店の前のコンクリート、6cmの段差が越えられない。Kさんの話を伺いながら、身近な車いすでの苦労を知る。
店内の様子を聞きに行ってくれたMさんが帰ってきた。「300分待ちでした‥‥」に絶句。ぼくはもう、無理だろうと思った。だが、終わらなかった。3人は全く、諦めていなかったのだ。車いすユーザーのKさんは、ならばとすぐに次の候補店を探す。ほかの二人も「ここは行けるんじゃないですか!」と熱い炎を眼にまとっている。みなさんとても楽しそうに。
このときのぼくは、「メイド喫茶には行けない」という気持ちの中で、「人出も多い。それに車いす2台で、エレベーターや段差も大変だし、難しいのではないか」と真面目ぶったことを考えていた。しかし、みなさんは違っていた。「車いすでも、あきらめなかったら、何とかなるはずだ」というエネルギーを持ち合わせていたのだ。
そして、3軒目に訪れたメイド喫茶では、メイドさんがテーブルを移動してくれて、ぼくらのために車いす2台分が入る席をつくってくれたのだ。諦めないことで導かれた結果だった。ぼくたち4人は人生で初めて、メイド喫茶に入った。特に車いすユーザーのKさんは終始、ここに至るまでの過程を生き生きと楽しそうにされていて、「車いすだとメイド喫茶には入れないんじゃないか」と勝手に線引きしていた自分を恥じた。Kさんは言った。「車いすでもメイド喫茶に行けたね! チャレンジは楽しい、それが大事なんだ」
WheeLogさんのコンセプト「車いすでもあきらめない世界をつくる」という言葉が頭に浮かぶ。先に、ぼくがあきらめる境界線を、自分で作っていたじゃないか‥‥。Kさんは、みなさんは、まるであきらめなかった。それに堂々としているじゃないか‥‥。ぼくはエネルギーを分けてもらった側だった。ドリンクを注文し、4人笑顔で祝杯をあげた。帰り際には追加メニューで、メイドさんとチェキを撮った。
結局、ぼくたちはメイド喫茶以外のミッションをそこまでこなすことなく、しかし、胸を張って日本橋の分身ロボットカフェ「DAWN」にゴールした。ぼくたち以外の班は、しっかりとミッションをこなしていた。全体でのフィードバックも新鮮だった。車いすに乗られる方と初めて電車に乗った方の一部始終、車いすでは横断歩道の時間が短いと感じられたこと、車いすに乗っているとATMでお金が下ろしづらかったこと。目から鱗の話ばかりだった。
さらに、会場である日本橋の分身ロボットカフェ「DAWN」も驚いた。分身ロボット「OriHime」は、人工知能のロボットではない。OriHimeとはリアルタイムで会話できる。つまり、OriHimeを介した先には実際に人がいる。遠隔操作で、車いすの方でも、遠出が難しい方でも、会話することができるのだ。今回はOriHimeの「だいち」さんと、「飲み物は何にしますか?」という会話から始まり、「どこに住んでいらっしゃいますか?」「好きな音楽が似ていますね」と、お話しした。同じテーブルで、同じ空間でお話ししている感覚だった。技術と社会が繋がっていることが、どれだけの人の心をあたためるのだろう。世の中にはあきらめない人たちがいる。信念が、社会を動かしている。
振り返りのあと、WheeLog代表の織田友理子さんと、カフェを運営するオリィ研究所所長の吉藤オリィさんのお話があった。最後に織田さんは仰った。
「新しく来た方、どんな方でもウェルカムで迎え入れましょう。それが、いちばんの価値。つながりつづけること。それが、いい世界をつくる道だと思います」
そして、この日は織田さんの誕生日で、サプライズがあった。ケーキが運ばれる。会場から、OriHimeから、おめでとうございますの喝采。祝福に包まれる。ここに、壁はない。誰も、あきらめていない。みなさんが最後、名残惜しそうに、そして嬉しそうに帰っていった様子が、忘れられない。WheeLogさんのあきらめない、明るい世界を、たくさん学んだ1日だった。
2022年6月14日「#11 車いすでもあきらめない世界」 写真と文章 仁科勝介(かつお)
取材ご協力
一般社団法人WheeLog
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