#19 学生らしく前向きに。
障がい者福祉に携わる施設や団体は、社会人の方々によってのみ運営されているのではない。大学生が主体として活動する団体も数多く存在する。上智大学の『Go Beyond』さんもそのひとつだ。東京2020大会に向けた、大学でのオリンピック・パラリンピックプロジェクトを母体として生まれた学生団体で、共生社会の実現に向けてパラスポーツの体験会やイベント、講演会、小中学校への出張授業と幅広い取り組みを行なっている。2018年に発足し、東京2020大会が閉幕した今も活動は続いている。
そして、今回は9月に開かれた「パリへ繋げ!走れ!Go Beyond大運動会」という自主企画にお伺いさせていただいた。東京2020大会が終わって1年経つが、2024年7月に開幕するパリ大会は、あと600日強まで迫っているのだ。今回は企画を通して、パリ大会に目を向け活動をつなげていくことが目的だ。ちなみに4年生にとっては最後の行事で、引退式の日でもあった。とても大事な日に学生さんのそばで、そっと見学をさせていただいた形だ。
運動会が始まる前に、4年生で当日まで副代表だった信岡幸生さんにお話を伺った。
「Go Beyondでは広報や企画、大学連携など、8つのカテゴリーに組織が分かれています。そのひとつが2020カテゴリーです。スポーツを中心に、共生社会に向けてできることを取り組んでいく。今回も実際に競技をして、交流も深めながら、パリ大会に向けて自分たちがどういう活動をしていくのか。きっかけにできたらと思っています」
信岡さんは現在4年生だ。Go Beyondに入った1年生の頃は東京2020大会が行われる前の、2019年になる。
「自分が入った年は2019年で、オリンピックやパラリンピックに向けてまち全体が盛り上がっていました。そして、東京2020を通した活動を経て、パラスポーツの知名度が上がったことも感じています。ただ、コロナ禍になってからは活動が難しくなって、スポーツそのものの魅力に話題を移したり、家でパラスポーツをやってみようという動画を制作したり、オンラインでできる企画をやったり、活動の軸も変化しました。東京2020大会のレガシーを、次のパリ大会につないでいけるように、未来につなげられるように、これから後輩のメンバーにも活動を続けてもらえたらと思っています」
さて、みなさんが続々と集合してきた。大学生の「久しぶり〜元気にしとった?」という会話に胸がぎゅーっとなる。まもなくチーム分けが発表され、その場でチーム名を決定し、チームカラーのハチマキをおでこに結ぶ。円陣を組む。全力で楽しむことが何より大切であって、美しい。
最初の競技はペットボトルを使ったモルックだ。「モルック」は投げる棒のことであり、モルックを投げてピンを倒して得点を重ねる。ただ、ボーリングのようにすべてを倒すことだけが目標ではない。ピンには得点が記されていて、1本のみ倒したとき、そのピンに記された得点が上積みされて、高得点につながる。そして、先に50点を先取した方が勝利となる。50点ピッタリを目指すことで技術的、戦術的な戦いになるし、幅広い年代の方が競技を楽しめることが、モルックの大きな魅力だ。
0点に近づくと、狙ったピンだけを倒すことが重要になってくるので、精度が求められるし、難しい。後半は白熱した戦いだった。
競技は盛り上がりを見せたまま、気配切り、パリ大会に関するクイズ大会、ドッチビーと続いた。ダイジェスト的なまとめになるけれど、気配切りは目隠しをする。視覚ではなく聴覚や気配を頼りに動くからこそ、ゴールボールにも似ていた。そして、パリ大会に関するクイズは2択でも難しい。
「パリ大会から実施される新競技は何か? 選択肢は、ペタンクかブレイキンです」
答えは‥‥ブレイキン。ダンスバトルが新競技になることを知る。
「パリオリンピック、パリパラリンピックのエンブレムは同じでしょうか、違うでしょうか」
答えは‥‥同じだ。しかし、パリ大会で史上初めて同じエンブレムになるのだと。2つの大会が同じ志を持っていることの表現である。
と、クイズもまた白熱したのであった。
フリスビーを使ったドッチビーは、考える時間もない。真剣勝負のドッチビーである!
全競技にみなさんが明るく取り組まれていて、たくさんの拍手や笑顔が広がって、とにかく素敵な時間だった。結果発表のあと、4年生には花が贈られ、Go Beyondさんの活動は後輩たちに引き継がれた。東京2020大会が閉幕した今も、活動が続いていること。それが学生たちの意志である。もちろんたとえば熱量という言葉を使うこともいささかおかしいけれど、活動への参加頻度が高い人もいれば、それほど高くない人もきっといると思う。兼部をされていたり、アルバイトも忙しかったり、大学生活はあっという間なのだ。
ただ、参加している学生さんの心の中にはみな、「より良い社会になって欲しい」という思いの萌芽があって、その思いを受け止めるGo Beyondという土壌がある、ということであった。学生さんが主体となり、年間を通して活動が続いていること。そして、学生のみなさんが大学を巣立ったあとも、Go Beyondさんでの経験が、あたたかくてささやかで強い、誰かへのやさしさへと変わるのだと思う。かっこいい学生さんたちに出会えて嬉しかった。力強く前向きな志は、引き継がれていくものだ。
2022年10月11日「#19 学生らしく前向きに」 写真と文章 仁科勝介(かつお)
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