。#07 千代田区障害者就労支援センターへ。

人は働くことの中に幸せがある。と、誰かは言っていたし、ぼくもそう思う。人に必要とされること。人の役に立てること。就職活動は、そのスタートラインを探す行程だ。転職活動は、タスキを次の区間で待つ新しい自分へ届ける行程だ。 
 
全員が同じコースを走るのではない。自分にとってのオリジナルコースを走る。そして走り出していくと、息が切れそうなときがある。足が止まりそうなときがある。なにせ、ゴールの距離は人によって違うのだ。距離感も簡単には読めない。無理をしてはいけない。棄権してもいいだろうし、立ち止まってもいいだろう。 
 
だが、前に進みたいという気持ちは持っているのに、完走できるか不安なときがある。喉が渇いてしまうときがある。そんなとき、飲み物を手渡しながら「一緒に走ろう」と優しく声をかけて伴走してくれるのが、就労支援センターの職員の方々だ。 
 
千代田区障害者就労支援センターの、センター長である秋元全和さんに、障害を持つ方々への就労支援について、幅広くお話を伺った。 

「そもそも、障害者就労支援センターって何なのだろうか、ということで、いくつか資料を作ってきました」 
 
温かなご配慮で、ハンドブックに加えて別の資料もいただきながら。 
 
「障害者就労支援センターという名前の通り、私たちは障害を持つ方の“就労面の支援”と“生活面の支援”と“自立安定した職業定着の実現”を目指して、利用者さんをサポートしています」 
 
詳しく伺うと、東京都で就労支援に関する相談先は、国の管轄する『障害者就業・生活支援センター』と、東京都の区市町村が管轄する『区市町村障害者就労支援センター』に分かれている。東京都は人口が多く細分化されているとのことだった。千代田区は取材させていただいている『千代田区障害者就労支援センター』さんの1つ、そしてほかの区もおよそ1つだが、北区は2つ、世田谷区は5つの就労支援センターがあり、利用者さんを支えていると知った。 
 
「利用者さんは、仕事に関するどのような相談の問い合わせが多いのでしょうか?」 
 
「いろんなパターンがあります。これから働きたい、という方もいらっしゃいますが、企業にすでに勤めているけれど、障害により働きづらさを抱えている方や、新たに障害を発症して仕事をお休みされている方も。復職に向かっての支援や、転職のご相談も増えています」 
 
一連の支援メニューは細分化されている。資料を見せていただくと、最初の過程はジョブガイダンス、職業カウンセリング、職業評価、職業前訓練、職業訓練、OJT職業実習…と、これはまだ就職活動をはじめる前の段階である。その後、就職のための支援に移行し、最終的には職場定着・雇用定着のためのフォローアップや、生活支援を行う。とても丁寧なステップが続いていることを知った。 
 
「とにかく、ご本人とのコミュニケーションを繰り返しながら、どんな風にキャリアを考えていくか進めていきます。どの段階から就労支援センターの職員が伴走していくのか、というのはそれぞれ異なりますが、区民であり続ける限り、希望があれば一生涯と言いますか、ハッピーリタイヤ、という過程になるまで、長きに渡って一緒にお仕事のキャリアを歩んでいく、という感じですね」 

お話を伺いながら印象深く残ったのは、記事に書かせていただいている以外にも頻繁に聞いた「伴走」という表現と、「定着」という職員さんの温かい思いだった。浅生鴨さん著の「伴走者」という、視覚障害者ランナーと視覚障害者スキーの伴走者を描く小説に深く感動したことを何度も思い出したし、一過性にさせない「定着」という思いは、障害者就労支援センターという存在の意義であることにも気づかされた。 
 
「定着は、とても大事なことだと思うんです。私たちは利用者さんのライフステージを含めて、仕事の関わりと向き合います。だからこそ“やめさせない支援”ではなく、ご本人がより良い、豊かな社会生活を送るための仕事は何か、と考えること。それを捉えていくことが必要なのです」 
 
就労支援センターの職員の方々は、正解のない人生という長い時間の伴走者なのだ。 
 
そして、今後は培われた就労支援のノウハウを企業に伝えていくことも、就労支援センターの大切な役割になっていくと教えていただいた。 
 
「法定雇用率が上がっていることもそうですが、SDGsの流れが加わったことで、多様性のある社会、ダイバーシティー&インクルージョンの流れがより近づいているように感じます。ただ、急激な変化が必ずしも良いわけではないと思いますし、企業さんの立場になって考えることも必要です。その上で、私たちは障害者雇用の啓発活動を進めながら、最終的には、企業の障害者雇用があたりまえになって、障害者就労支援センターの必要性がなくなってしまうぐらいの方が、未来の社会にとっては良いことなのかもしれません」 
 
就労支援センターの職員の方々は、利用者さんに向き合って「働く」ことの伴走をしていく気概を強く持っていたし、さらには社会に対しても、障害者雇用という考えを浸透させようと努力してくださっていると知った。意義を持ちつつ、バトンもつないでいるのだ。 

ぼくも、将来は障害者雇用があたりまえになった社会が好きだなあ。障害者就労支援センターさんが発行している「働くことを応援する」という通信の、2011年冬号で紹介されていた『日本理化学工業株式会社』さんの記事を引用したい。会社ではチョークの製造を行っており、当時73人の従業員のうち、7割以上が障害を抱えていた。坂本光司氏著『日本でいちばん大切にしたい会社』は同社を取り上げたベストセラーであり、会長の大山泰弘氏は2010年、社会福祉事業に貢献した企業に贈られる「渋沢栄一賞」を受賞している。以下は取材記事の好きな一節である。 
 
「障害者雇用の秘訣について質問を受けるそうですが、これまで特に意識したことはないのでどう答えてよいか困るそうです。自分たちは障害のある人が働きやすいように段取りをし、するとそれに応えてくれる、ただこのことを続けてきただけ‥‥」 
 
工程に人を合わせるのではなく、人に工程を合わせること。それがあたりまえの世界は10年“前”にもあったのだなあ。ならば、10年後、ってね。口だけではなく、ぼくに出来ることも、考えます。最後に、センター長の秋元さんに、就労支援に携わる方々への謝辞をいただきました。 
 
“日々、仕事を続けてこられている障害をお持ちの皆様へ敬意を表すと供に、連携し支援に携わって頂いている関係機関、そして、当センターの活動にご理解ご協力を頂いている企業の皆様に心より感謝申し上げます。「地域で暮らす多様な人がお互いを尊重し、つながり、支え合う、『地域共生社会』の実現」に向けて、地域の障害者就労支援の拠点としての役割を今後も果たしてまいりたいと考えております” 
 
秋元センター長、この度は貴重なご縁をありがとうございました。 

2022年4月12日 「#07 千代田区障害者就労支援センターへ。」 写真と文章 仁科勝介(かつお) 

取材ご協力 
千代田区障害者就労支援センター 

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