#20 ゴールドコンサートに向けて。

戦時中に手作りされた点字図書

NPO法人の「日本バリアフリー協会」さんに伺った。日本バリアフリー協会さんでは、音楽イベントの開催などを通して、障がい者の自立や社会進出の理解を深めてもらうことを目指している。そこにはふたつのイベントの軸がある。「GCグランドフェスティバル」と「ゴールドコンサート」だ。前者はフェスであり、後者は国際舞台芸術コンクール。GCグランドフェスティバルは2019年に第5回が開催されて以降、現在は社会情勢もあって準備期間中。そして、ゴールドコンサートは2004年から、毎年開催されている。今年で第19回目だ。 
 
代表理事の貝谷嘉洋さんにお会いしたのは、まだ夏本番を控える7月であった。貝谷さんは筋ジストロフィーのため、普段から電動の車椅子に乗っていらっしゃる。はじめましてのご挨拶をして、バリアフリー協会さんについて、イベントについて、話を伺った。 

「はじめまして。よろしくおねがいします。日本バリアフリー協会さんでは、音楽にスポットを当てていらっしゃる面が大きいと思うのですが、それはきっかけがあるのでしょうか?」 
 
少し間を置いて、貝谷さんはゆったりと話してくださる。 
 
「参考にしているグリーンコンサートというイベントが、デンマークにあります。野外フェスでだいたい15万人から20万人ぐらい集まる。このフェスは、デンマーク筋ジストロフィー協会が主催であることを知りました。障がいを持つ人も持たない人も、イベントに参加する、運営するという形。その中で啓発もしていくということを、日本でもやりたいなあと。そしてNPO法人を立ち上げました」 
 
デンマークのグリーンコンサートをぼくは知らなかった。1983年に開催されて以降、20万人を動員する一大フェスであること。そのフェスを、障がい者団体が運営していること。デンマークと日本の人口でフェスの規模感を比較してみたら、ものすごく大きなフェスであると気づかされた。貝谷さんは、その日本版の開催を目指しているのだ。「GCグランドフェスティバル」と題され、すでに2013年、2015年、2017年、2018年、2019年に開催されている。ただ、むずかしい点もまだ多いと仰る。 
 
「まだまだ、国内で障がい者団体が主催するフェスを理解してもらうには、時代的な難しさを感じています。たとえば『あれ、チャリティーじゃないの?』って。チャリティーと呼ばれるのが嫌で、このフェスティバルをやっているんですよね。要するに、リスクを背負ってやっているイベントでもあります」 
 
そして、GCグランドフェスティバルよりも先に、2004年には障がい者が出場する音楽のコンテストとして、「ゴールドコンサート」が誕生した。フェスとの大きな違いは、コンテストであるという点だ。 
 
「ゴールドコンサートは、今年で第19回を迎えるというのはすごいですよね」 
 
「アドバイスを受けて開催したのですが、よかったと思っています。音楽は人の思いが出ます。コンテストではオリジナルであることも力になっていきますし、やっぱり賞をとりたいと思うことで、クオリティも上がる。すると周りの評価も上がる。周りの評価が上がると、人とつながるきっかけが増えて、さらに活動の場が広がる。という循環があります。それを、もっともっと大きなものにしたいなあと」 
 
「前回の決勝大会のダイジェストを拝聴したのですが、ジャンルも様々で、ソロの演奏の方もいれば、ダンスの方もいれば、すごく幅が広いと思いました」 
 
「表現方法はそれぞれだと思うので。やっぱり独特の障がい者の社会的地位というか、状況がありますから。コンテストやオーディションでも、出ようと思ったときに、会場がバリアフリーじゃなくて出られないということがあったりします。障がい者という理由だけなんですよね。でも、障がい者も同じ可能性がある。光があたったときに能力を発揮できる。ということを、知らしめたい。それがこのゴールドコンサートの趣旨です」 
 
ほんの少しだけ語気を強めた、「知らしめたい」という言葉が、貝谷さんのやさしい雰囲気の中にある、ブレない軸に思えた。貝谷さんは言葉を続ける。 
 
「“知っていただく”はおかしいんだよねえ。“させていただく”も違うし。私は高校受験のときに、希望校が受けられなったんです。それがすごく悔しくて、もちろんひとつの例ですけれど、そのときの悔しい思いが、いまの活動の中にも表れているのかなと」 
 
ここで、同行していたえみふるの堀田さんからも質問があった。 
 
「ずっと長くゴールドコンサートを続けていらっしゃる秘訣はありますか? 簡単なようで、むずかしいことかなとも思うのですが‥‥」 
 
貝谷さんは、なんでだろうね、と笑いながら。 
 
「うーん、でも、やっぱり先の目標があるからかなあ。予選会は全国で7から8ブロックをつくって、それを勝ち進んだら決勝大会に進める仕組みをつくりたいと思っていますし、いまは海外でも予選会をやろうとしていまして。とにかく先の目標があると、チャレンジせざるを得なくなりますよね(笑)」 
 
GCグランドフェスティバルでフェスをやること。ゴールドコンサートを毎年開催すること。熱い思いは貝谷さんの心の中に宿り続けている。そして、時は早くも3ヶ月経ち、10月10日に第19回ゴールドコンサート決勝大会がやってきた。ぼくは最初、取材としてお伺いする形を想定していたけれど、実はボランティアでカメラマンをさせてもらった。長く大会の撮影をしていらっしゃるベテランのカメラマンさんと二人で、大会の様子を撮影させていただいたのだ。みなさんと同じボランティアTシャツを着て、早い時間に現場入りする。リハーサル中の会場は準備で慌ただしくも、大きな熱気に包まれていた。 
 
(第19回ゴールドコンサート決勝大会、当日編につづく)

2022年10月25日「#20 ゴールドコンサートに向けて」 写真と文章 仁科勝介(かつお)

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