#01 プロローグ。

2021年6月にえみふるを取材させていただいたことが縁になって、『かつおがゆく。』という取材ページを持たせていただくことになった。 
えみふるを中心とした障がい者施設の福祉活動、たとえばボランティア、教育、行政、スポーツ、まちづくり‥‥、それらを広く知ってもらうことが目標だ。 
ただ、気が引けるタイトルだと思ったし、ぼくにどれだけのことができるだろうと考えた。 

話をいただいた1ヶ月後、えみふるで1日職業体験を受けさせてもらった。取材ではなく、えみふるの日常を知ることが目的だった。 
 
昼食の白ご飯は飲み込みやすいように、利用者によってお米のやわらかさが違うことを知った。 
理学療法士の先生が歩行訓練の指導で来ていて、最初より歩けるようになった利用者の方が、心から無邪気に手を叩いた。 
ミニ運動会があって、入場行進も玉入れも綱引きも、普通の何倍もゆっくりプログラムが進んだ。参加された方は恥ずかしそうに、それでも合図のあとに赤玉をカゴに入れ、綱を引っ張った。心と向き合っていて、惰性は感じなかった。 

福祉という仕事は、いったいなんだろう。「仕事」と一言で括れば、ほかの仕事と同じだ。 
しかし、職業体験を経て、もしほかの仕事と違いがあるとすれば、福祉の仕事は「生の実感」に向き合うことではないかと思った。 
 
日常という暮らしに、壁を抱える人がいる。それをぼくらは生きづらさ、なんて表現する。誰かにとってのちいさな一歩は、誰かにとってのおおきな成長になり得る。 
立つこと、歩くこと、覚えること、咀嚼すること、脱力すること、人から注目されること、社会と関わりを持つこと。 
 
「生の実感」に触れることは、大切なことだと思った。そしてえみふるでは、「生の実感」がすぐそばにあった。利用者さんも職員さんもみな同じように、手触りの日常と触れ合っていたのだ。その姿を見ていて、とても胸に響いた。 

だから、ぼくに出来ることは、福祉に携わる方々を、写真におさめることだと思った。それがぼくにとっての「生の実感」であると。 
 
少しでも、誰かの日常があたたかくなりますように。そういう気持ちで、取り組んでいきます。どうぞ、よろしくお願いします。 

2022年1月11日 「#01 プロローグ。」 写真と文章 仁科勝介(かつお) 

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