#23 行政と障害者福祉。
これまでにNPO法人さん、スポーツ団体さん、大学生さん、民間の企業さんなど、いくつかの場所でお話を伺ってきた。と言っても、きっとぼくが出会ったのは、世の中にある障害者福祉のごく一部だ。その上で、今回はえみふるの堀田さんと一緒に、千代田区役所の障害者福祉課の方々にお話を伺った。行政の立場から見る障害者福祉についても、いつか聞いてみたいと思っていた。お話を伺ったのは、障害者福祉課長の清水直子さん、障害者福祉係長の金子辰夫さん、総合相談担当係長の小坂部晃さんの三人だ。
(左から金子係長、清水課長、小坂部係長)
とにかく、ぼくは行政のお仕事のことを全然知らなくて、まずは清水課長に、千代田区役所での障害者福祉の業務についてお尋ねした。
「障がいのある方が、住み慣れた地域で自立した暮らしを続けるための支援やサービス、法定の給付等を実施しています。具体的には、身体障害者手帳、愛の手帳(知的障害の方に交付される)、また精神障害者手帳などの、各種手帳に関する事務。そして、それに伴う福祉サービスの提供です。あとは相談支援などが主な事業で、ほかにも障害者就労支援施設(ジョブ・サポート・プラザちよだ)を指定管理施設として、また、委託事業として障害者就労支援センターや、障害者よろず相談支援を運営しています」
とお話を聞いて、そうか、確かにいろいろ細かく、業務が分かれているのだなあと感じられて、
「障害者福祉課ができたのは、いつ頃なのですか?」
と尋ねてみた。そこで清水課長は、
「以前は生活支援課と一緒だったんです」と。
えみふるの堀田さんも、
「確かえみふるが始まった頃も、生活福祉課という名前だったと思います。途中から変わりましたよね」
金子係長の補足では、6年ほど前に障害者福祉課が出来たという。その頃は大きな組織改正が頻繁に行われていて、生活支援課から枝分かれしたとのことだった。
そして、千代田区という土地と障害者福祉についても、気になってお伺いをした。
「千代田区における、障害者福祉の特徴はありますでしょうか?」
清水課長が、丁寧に答えてくださる。
「障害福祉サービスの利用については、低所得者の負担を軽減するための区独自の施策として1割負担を5%に軽減しています。千代田区は人口が少ないこともあり、他区と比べてきめ細やかな対応ができていると思います。また、千代田区は教育委員会の中に『子ども部』という組織があって、そこで子どもの福祉業務も担っています。教育と福祉の分野を分けずに一緒に考えるということも、取り組みとして特徴的ですし、子どもについて総合的に施策を考えることは大事なことと考えています」
子ども部について、小坂部係長が補足をしてくださった。
「千代田区は早い段階から教育と福祉を総合的に捉える仕組みづくりをしてきました。子ども部は教育委員会の組織に含まれ、18歳以下の児童及び子育て支援について各種事業を行い、子どもとその保護者を中心に据えて教育と福祉の連携を図っています。課題としては、18歳以降に、障害者福祉課をはじめとする保健福祉部が行う事業やサービスへの引き継ぎの難しさがあります」
金子係長も、
「役所は法律に基づいて仕事をしているので、18歳までは児童福祉法が適応されますが、18歳以降は障害者総合支援法に変わるんですね。そういう難しさもあります」
と。千代田区は人口も少なく、独自の取り組みを積極的に行える立場にあるし、実際に取り組んでいる。その上での難しさもあると。法律の話になると、なるほどなあとぼくは眉をひそめるしかできない。
さらにどんどん質問する。
「行政では、NPO法人さんや民間サービスとの違いはありますか?」
清水課長は基本的なところですがと前置きしつつ、
「行政である分、個人情報を多く扱いますが、適切に管理しながら対象者すべてに必要な施策やサービスを提供できることです。障害をお持ちの方は、経済状況や生活環境等を含め様々な立場の方がいます。そのような方に公平に必要なサービスを提供しています。」
また金子係長も、
「元々人口が少ないので、区民の方々ひとりひとりの声が大きいと思います。普段役所に行くことって、そんなにないじゃないですか。でも、千代田区では日ごろから足を運んでくださる方が多くいらっしゃるんですね。区民の方との会話は密だなあと思います」
えみふるの堀田さんも頷いて、
「千代田区は人と人の距離感が近いですよね。特に長く住んでいらっしゃる方は、いろんな人と繋がりがある」と。
確かに、以前訪れた千代田区のふれあい福祉まつりでも、ひとつの村にやって来たようなコミュニティを感じる場面が多くあった。行政はいろんな方々の場や声を受け止めるところでもある。
そして、仕事のやりがいについてもお尋ねをした。清水課長は、共生社会の実現という大きな目標をめざし、社会の変革の中に自分が携わっている、そのことに責任を感じるとともにやりがいになっている。金子係長は、直接区民の方に「ありがとう」と言われたときに、とても嬉しいと感じること。小坂部係長は、職務で区民の方と連携した調査を行いながら、サービスを通して良い方向へ結びついたと実感できたときにやりがいを感じること。など、それぞれその通りだと思うことばかりで、現場の声だなあと感じられた。
やはり、みなさんは行政という立場の中で、できることを取り組んでいらっしゃる。それももしかしたら、行政なのだからという嫌な言葉のもとであれば、あたりまえなのかもしれないが、聞いてみないと分からないことだから。その上で、ぼくが分かりきったようなことを言うことはできないと思うばかりだ。実際、千代田区で感じた良かったことを、2000人の障害をお持ちの区民の方から集めたという区のアンケートでは、施設について、生活全般について、公共交通機関について、障がいや病気を抱える方々の「助かった」や「ありがとう」という言葉が、ほんとうにたくさん並んでいることを知った。共生社会のいちばんの根っこは、人と人が感謝の言葉を言えたり、つながっていると感じられたり、人間同士の関係性の中にあるのかもしれない。
金子係長がアンケートについても仰った。
「アンケートの中で最も嬉しかったときの回答は、『声をかけられた』というものなんですね。病気になったり怪我をしたりすることもあります。そうなったときに、コミュニティ全体が声をかけやすいような、優しさを持っていることが、大事なんじゃないかなと思うんですよね。オープンな社会になるといいなあって」
「共生社会」という言葉は抽象的だ。しかし、その言葉の原点は、金子係長が最後に仰っていたことだと思えた。区役所のみなさんにお話を伺って思うことは、立場が違うだけだよなあと。同じ方向にベクトルを向けて、行政でも民間でも、そしてわたしたちひとりひとりが、ほんの少し優しくなろうと努力する。その心がけを持つ。そうすれば各々の立場で、形にできる。心ほど人を支える強いものはない。自分は自分なりに、もっといろんなことを知って、言葉だけではない人間になりたい。
あらためて清水課長、金子係長、小坂部係長。お忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。
2022年12月13日「#23 行政と障害者福祉。」 写真と文章 仁科勝介(かつお)
取材ご協力
千代田区保健福祉部障害者福祉課
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