#16  あらゆる支えとなるホープさん。

千代田区を拠点に活動している、NPO法人ホープさんに伺った。えみふるさんとも長い付き合いがあり、千代田区の障害者福祉やボランティア事業などを幅広く支えている。今回はホープさんの事務所にて、活動のひとつであるオンライン手話教室の様子を見学させていただいた。代表理事の永田潔さんにもお話を伺いながら。

オンライン手話教室は、昨今の情勢によってあたらしく始まったものだ。教室が始まって1年半ほどで、受講者の方は250人にのぼるという。そして今回は、講師の中村直子先生によるレッスンを見学させていただいた。先生も、配信はお住まいの場所からである。中村先生の雰囲気がとても明るく優しくて、オンラインでもまるで寂しさを感じなかった。 
 
「今日は熱中症になった方も多いとニュースで聞きました。十分に水分補給をして、体調には気をつけてくださいね」 
 
と、冒頭の先生の挨拶そのままの流れで、「そういえば、気をつけてという手話は‥‥」と、自然に手話の話題にもなった。「気をつける、という言葉は隙間なく身を引き締める、ということからきています」と、早速ぼくも先生のレッスンに吸い込まれていった。

それから1時間、ずっと能動的な学びの場だった。今回は指文字や色の名前、さらには自己紹介とレッスンが続いた。家族の話題になったとき、「パパとママは口の動きが同じですから、手話のときの口元はお父さん、お母さんと表現しましょう」というアドバイスがあって、なるほど、思えばそうだけれど、今まで考えたこともなかったと、目から鱗だった。また、前回のえみふるさんの手話講座でも知った手話による拍手の場面もあった。キラキラと手を振ることで拍手するみなさんを見ていると、「手話は気持ちの届く言語なのだなあ」と強く思った。 
 
そして、代表理事の永田さんにも話を伺った。代表理事ということは、本来は現場に立たなくても良いわけだけれど、永田さんは今もずっと最前線にいる。「お忙しいのでは‥‥」という問いかけには、「職員には休んでもらうからね」と笑った。 
 
ホープさんは2005年にNPO法人として設立された。当時、千代田区で障害者福祉や手話教室、ボランティアに携わるような法人はなく、先駆け的な組織だった。立ち上げ当初から永田さんはいらっしゃったわけだけれど、永田さんは元々、窓ガラスの清掃の仕事をしていて、そこで障がい者支援に関心を持ち始めたということだった。 
 
「最初は窓ガラスの清掃をやってたんだ。それで、清掃員に聴覚障害者の人がいて、手話を始めたんだよね。それから職場に限らず、障がいを持った学生へのボランティアをするようにもなった。元々は、障がい者支援は国がやるべきじゃないのか、という考えも持っていたけれど、支援金制度が当時あたらしくできて、そうなると大きな企業も入ってくるだろうから、そうした企業ばかりの世界になるのも良くないんじゃないかと思って、自分でも活動を始めたんだよね」 
 
「なるほど‥‥。窓ガラスのお仕事から、今のホープさんへ」 
 
「そう。あと、たまたま友だちの家に遊びに行ったとき、友だちのお兄さんが聴覚障害者だった。友だちとお兄さんは、口話(口の動きによる会話)で話をしてたんだよね。それを直接見て、ずっと心に残ってた」 

永田さんはほかにもアメリカで美容師をされたり、アジアの料理店を経営したり、時系列がよく分からなくなってしまう程に、ほんとうにいろんなことをしていらっしゃる方だった。興味のあることにはどんどん取り組む。ホープさんでも、できそうな取り組みは何でもやってみる。そして、いろんな人と繋がりながら、人生をたのしむことも忘れないという心意気で。 
 
「ぼく自身の考えとしては、ホープで働いている人間が、いつかはここを離れても良いようにと思っている。つながりを増やして、自分で技術を学んで、羽ばたいていけるように」 
 
お話をしている途中、ひとりの職員さんが事務所に戻ってきた。ぼくが挨拶をしようと思ったとき、スッと永田さんがその職員さんのところへ歩いて、手話で会話を始めた。その職員さんは、耳が聴こえない方だった。永田さんは手話のやり取りのあと、話をしてくださった。

「彼女は耳が聴こえないけれど、実は視力も弱いんだ。将来、盲ろうになってしまう可能性もある。でも、彼女のすごいところは、学校で必死に勉強をして、いまは社会福祉士の勉強もしている。資格があれば、仕事ができるんだよね。だから、彼女自身でこれからも人生を切り拓いていけるんだ。そして、そしたらそれが、いろんな人にとっての生きるということの幅広さになるよね。ホープにとってもそうだ。それは、すごく大事なことだと思う」 
 
ホープという場所が、サービスを利用する方々の暮らしを支えるだけではなくて、働く職員の方々にとっても、大切な場になっているのだということを感じた。それは、組織としての強さがあってのことなのだと思う。ぼくはそうした場を支え続ける永田さんのことが、つくづく好きになった。 
 
「とはいえ、ぼくも自分一人じゃないから。友だちに助けてもらったり、いろんな人に手伝ってもらったりして今がある。自分だけの力じゃなくて、手伝ってくれる人がいるおかげでいろんなことができるんだよ。そうして誰だって、人生はたのしまなくっちゃね」 
 
今では70人ほどの方々が、ホープの運営に携わっている。今後は、海外の方の日本での就労支援問題についても取り組みたいと、永田さんは最後におっしゃっていた。ぼくも同じ疑問点を持っていたから、その話を聞いてすごく共感した。ホープさんは永田さんというリーダーのもと、これからもあらゆる人々にとっての、支えの場になっていくのだと思う。手話教室で感じた、あたたかさとやさしさ。そして、永田さんにお会いして感じた強さと明るさ。千代田区にホープさんというNPO法人があるということを、知ることができてすごく良かった。 

 2022年8月23日 #16あらゆる支えとなるホープさん。 写真と文章 仁科勝介(かつお)

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